年末に棚卸する業者必見!棚卸の概要と仕訳方法を解説
2022年12月6日在庫管理は、経営者の悩みのひとつです。
顧客からの注文が殺到したときにどんどん製造や注文をしたところ、急に売れなくなり、在庫が積み上がってしまったという事例はよくあるケースです。
在庫には、倉庫代や管理工数などのコストも掛かり、その経済的な負担は小さくありません。
このような在庫を管理するのが「棚卸」です。
本記事では、いかに棚卸が必要かと、その計算方法や仕訳方法、実際の棚卸の方法について説明していきます。
棚卸の必要性について
棚卸は、会社の会計管理を正確にするために必要なプロセスです。
商品は、紛失や盗難が原因で、実際の数量(実地棚卸数量)が帳簿上の棚卸(帳簿棚卸数量)よりも少ないことがあります。
また、商品が売れないまま時間が経つうちに、その商品の価値が下がってしまうことがあります。
このような棚卸数量の差異による損や、原価と時価の差異による損は、売上原価に含めて計算する必要があります。
つまり、利益を正確に把握するために棚卸が必要になってくるというわけです。
さらに、在庫が過剰になると、倉庫代や管理工数等のコストにもつながってしまいます。
このようなコストの把握のためにも正確な棚卸が必要です。
棚卸を理解する上で覚えておきたい在庫の種類
一口に在庫といっても、実は様々な種類があります。
そこでここからは、実際に棚卸を理解する上で知っておきたい在庫の種類について説明します。
- 期首商品棚卸高
- 期末商品棚卸高
それぞれについて、意味合いと計算・仕訳方法を解説します。
期首商品棚卸高
期首商品棚卸高とは、会計年度の開始日に存在する商品・製品のことです。
前期末に存在した期末商品棚卸高が、そのまま今期の期首商品棚卸高になります。
計算・仕訳方法
期首商品棚卸高の計算方法と仕訳方法を、数値例をもとに説明します。
<数値例>
期首商品棚卸高:100万円
当期仕入高:900万円
期末商品棚卸高:50万円
上記の数値例における仕訳は以下のようになります。
・仕入れ時
借方 | |
仕入 | 900 |
貸方 | |
買掛金など | 900 |
・決算時
借方 | |
仕入 | 100 |
繰越商品 | 50 |
貸方 | |
繰越商品 | 100 |
仕入 | 50 |
期首商品棚卸高が仕訳で登場するタイミングは、決算時です。
簿記では、期首商品棚卸高や期末商品棚卸高を「繰越商品」という勘定で処理をします。
この仕訳は、商品仕入に期首商品棚卸高を振替え、期末商品棚卸高を逆に振替えるという意味です。
簿記を勉強したことが有る方は、「しーくりくりしー」という覚え方を聞いたことがあるかも知れません。
期末商品棚卸高
期末商品棚卸高とは、期末に残っている商品の仕入原価を指します。
三分法で処理している場合、商品を仕入れたときに仕入(費用勘定)で処理するため、期末に残っている、まだ売り上げていない商品の原価も仕入(費用勘定)の金額に含められています。
しかし、期末に残っている商品は資産なので、決算において、期末に残っている商品の仕入原価を仕入(費用勘定)から繰越商品(資産勘定)に振り替えます。
計算・仕訳方法
期末商品棚卸高の計算方法と仕訳方法を、期首商品棚卸高と同じ数値例をもとに説明します。
<数値例>
期首商品棚卸高:100万円
当期仕入高:900万円
期末商品棚卸高:50万円
上記の数値例における仕訳は以下のようになります。
・決算時
借方 | |
仕入 | 100 |
繰越商品 | 50 |
貸方 | |
繰越商品 | 100 |
仕入 | 50 |
この仕訳は、商品仕入勘定に期首商品棚卸高を振替えし、期末商品棚卸高を逆に振替えるという意味です。
「しーくりくりしー」と覚えておきましょう。
代表的な棚卸の手順
ここからは、主な棚卸の方法について説明します。
会社が所有する資産の中で、1つ2つとカウントできるものは棚卸を行う対象になります。
棚卸で主にチェックが必要な情報は数量と品目です。
ただし、販売が出来ないような状態の商品等については記録しておく必要があります。
そして、棚卸の方法には大きく分けて2つの方法があります。
「タグ方式」という現物を起点にする方法と、「リスト方式」という帳簿を起点にする方法です。
タグ方式を使った棚卸
タグ方式とは、担当者が在庫の現物の数量と品目とをチェックした後、伝票に記入し、現物に貼り付けながら現物を数えていく方法です。
メリットは、現物から先にカウントすることになるため、在庫の数え漏れが発生しづらいという点です。
一方で、伝票の管理等、一定の工数がかかることがデメリットとなります。
リスト方式による棚卸
もうひとつのリスト方式は、在庫管理表等の帳簿(リスト)に記載されている数量を元に、実際にある在庫をチェックし、リストの数量と突き合わせる方法です。
この方法のメリットは、まず帳簿上の数量をチェックした後、現物をカウントするため、比較的短時間で作業を終えられることです。
反面、帳簿上の数値を起点にするため、漏れが発生しやすいという点がデメリットになります。
棚卸の頻度はどのくらい
棚卸は、最低でも年に1回は行うことになります。
何度か触れているように、期末から翌期首にかけて作成する決算書に記載する利益の金額を正確にするために必要だからです。
さらに、在庫管理をもっと確実に行いたいのであれば、半年に1回や四半期に1回等頻度を上げて実施することになります。
棚卸は非常に工数のかかる作業なので、頻度は自社の状況を考慮して決めていくべきです。
棚卸在庫の評価方法
棚卸は主に棚卸資産の品目と数量をチェックする作業となります。
しかし、会計上は棚卸資産をキログラムや個数ではなく円単位、つまり金額で計上しなければならないので、棚卸資産の金額を評価して決める必要があります。
棚卸資産の評価には大きく分けて2つの方法があります。
それは、原価法という仕入単価のみを考慮する方法と低価法という時価も加味する方法です。
原価法とは期末に最も近い仕入単価を期末棚卸資産全体の単価として計算する方法、低価法は原価法による評価と期末時価を比較して、どちらか低い方を選択する方法です。
それぞれの会社は原価法と低価法いずれかの評価方法を選択し、いったん選択したら継続的に同じ方針で期末在庫の評価を行っていくことになります。
それでは、以下の数値例をもとに、それぞれの評価方法の計算をしてみましょう。
〈例〉
A社はX商品を仕入れて販売する小売業である。
期首のX商品の在庫は、500個、単価15で計上している。
期中のX商品の売上は1,000個、単価は20であった。
期中の仕入は900個、単価18であった。
棚卸を期末に行ったところ、X商品の在庫は400個であった。
なお、期末のX商品の時価は10であった。
原価法を利用した場合
期末在庫の評価は仕入時の評価を使うことになるので18と評価されます。
期末在庫の数量は400個なので40に18を掛けて、720が期末在庫の金額になります。
売上原価=期首在庫+仕入金額−期末在庫になるので、
500×15 + 900×18 − 400×18 = 16,500
となります。
利益=売上−売上原価で算出されるので、
1,000×20 −16,500 = 3,500
となります。
低価法を採用した場合
期末在庫の評価は原価と時価のうち低いほうを使用するので、10と評価されます。
期末在庫の数量は400個ですので400に10を掛けて、4,000が期末在庫の金額になります。
後の条件は原価法の際と同じなので、売上原価は
500×15 + 900×18 −400×10 =19,700
となり、利益は
1,000 × 20 − 19,700 =300
となります。
上記の例のように、原価法を採用した場合と低価法を採用した場合を比べると、利益の金額が全く異なってくるということが分かります。
返品された在庫の確認方法
販売した商品が様々な理由で返品されてくるときも、仕入れたときと同様に在庫に入る(戻る)ことになります。
返品されて在庫が増えるということは、期末商品棚卸高が増えることになります。
すると、その分売上原価が減ることになるので、返品分を在庫に組み入れた場合は、売上の取り消しだけを行えばよいということになります。
棚卸をする際の注意点
棚卸を行う際に注意すべき点は、在庫数量を確実にカウントして漏れやダブりがないようにすることです。
漏れやダブりが発生してしまうと、利益が間違って算定されてしまう可能性もあり、会計管理上、大きな問題になりうるため、棚卸は慎重に実施する必要があります。
また、棚卸を行うためには、会社の業務を一度ストップしなければなりませんし、多くのヒューマンリソースが必要になります。
したがって、実施のタイミングなどは自社の状況に照らし合わせて緻密に策定し、業務ストップ期間を最低限にするように努める必要があります。
さらに、棚卸の作業は在庫の数量を数えるだけではなく、販売できるかどうかの状態もチェック
する必要があります。
冒頭で述べたように、売ることができない在庫があると判明すれば、その金額を損失として計上する必要がありますし、販売自体が可能であっても、品質が低下していれば評価損を計上する必要があります。
棚卸について理解して正しく在庫管理をしよう
本記事では、棚卸の必要性と、その計算方法、仕訳方法、実際の棚卸の方法について説明してきました。
簡単に本記事の内容をまとめます。
- 利益を正確に把握するために、在庫(期首・期末商品棚卸高)の把握が必要
- 仕訳の方法は、「しーくりくりしー」が一般的
- 棚卸の手順は、タグ方式とリスト方式がある
- 棚卸の頻度は、最低でも年一回
棚卸の重要性と方法についてご理解いただけたでしょうか。
エスエスコンサルティングでは、棚卸の計画や在庫管理に関する問題点の抽出、改善案の提案を行っています。
また、棚卸をはじめとする経営に関する疑問点にお答えできるので、お気軽にお問い合わせください。