中小企業の役員報酬はどう決める?決定する際のポイントも解説
2022年12月29日役員報酬がどのように決められるのか、役員報酬の相場はいくらなのか、悩んでいる中小企業の経営者も多いことでしょう。
本記事では、役員報酬と給与との違いを解説したあと、役員報酬を決める際の注意点や手順について紹介します。
役員報酬には税務上のルールが存在するので、そのルールを理解しておかないと、経営が立ち行かなくなる事態にもなりかねません。
役員報酬についてしっかり理解を深めておきましょう。
役員報酬の定義
役員報酬とは、取締役や監査役といった会社法上の役員に対して支給される報酬です。
これに対して、給与は従業員(会社と雇用関係にあるもの。会社法では使用人といいます)に対して支給される労働の対価のことをいいます。
税務上は従業員に対する給与と役員報酬では取扱いが異なります。
従業員に対する給与は全額損金にできるのに対して、役員報酬は一定条件を満たさないと損金に算入できません。
なぜなら、オーナー企業の役員は自分の報酬を自分で決定することができてしまうため、たとえば、親族である役員にその業務に見合わない不当に高すぎる役員報酬を支給することもできてしまいます。
不正に利用できないための、条件がかかっているか否かが給与と役員報酬の違いとなります。
役員報酬の決め方
適切な役員報酬の決め方にはどのようなものがあるのでしょうか。
- 株主総会で決定する
- オーナー社長が決定する
このようなケースが考えられます。
それぞれについて、以下で詳しく見ていきます。
株主総会で決定する
「株主総会」とは、株主で構成される株式会社の最高意思決定機関です。
株主総会では、
- 会社の組織・事業に関する重要事項
- 株主の権利に直接関係する事項
- 役員の選任・解任
- 役員報酬
などを主に決議(決定)します。
会社法は、株式会社の運営が適切に行われるよう、会社の規模などに応じて、機関(意思決定などをする組織・人)を置かなければならないと定めています。
会社法 第三百二十六条 株式会社には、一人又は二人以上の取締役を置かなければならない。
2 株式会社は、定款の定めによって、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、監査等委員会又は指名委員会等を置くことができる。
上述の会社法326上の他、会社法によって定められた株式会社の機関は、以下のとおりです。
- 取締役・取締役会
- 代表取締役
- 会計参与
- 監査役・監査役会
- 会計監査人
- 監査等委員会・指名委員会等・執行役
株主総会は、これらの機関の中でも、最高の意思決定機関であり、会社に関する重要な事項は、基本的に株主総会決議によって決めることになります。
オーナー社長が決定する
オーナー社長とは、会社の所有権を持っていながら、経営もしている立場です。
雇われ社長(サラリーマン社長)と比べて、オーナー社長は会社内で絶対的な権限を持っている反面、ワンマン経営に陥りやすい、失敗したときのリスクが大きいなどのマイナス面もあります。
会社の所有権は、株式を過半数、つまり50%を超えて保有していると認められます。
(形式支配力基準)
多くのオーナー社長は株式を100%保有している場合も多く、その場合だと株主総会決議の内容はすべて社長の決定どおりになります。
監修コメント
1年間のKGIをしっかりと予測し、家賃や従業員の給与、光熱水道費などの固定費や仕入金額、粗利を算出した上で、役員報酬として計上できる金額を計算しましょう。仮に、良いことではありますが、当初の予想に反して利益が多く出てしまうことになれば法人税を多く納めなければならなくなり、資金繰りが圧迫される可能性もあるので慎重に決めましょう。 |
役員報酬を決めるときに必要な書類
ここからは、役員報酬を決めるときに必要な書類について説明します。
役員報酬の金額は株主総会で決める必要があります。
株式会社の場合は「株主総会議事録」を作成し、出席した役員が捺印します。
作成した役員報酬の決定の書面については、税務署などの役所に提出する必要はないので会社で保存しておくだけで問題ありません。
監修コメント
役員報酬は「定款または株主総会の決議によって定める」とされています。中小企業の場合、定款で役員報酬について定めていない場合がほとんどです。そのため、多くの中小企業では株主総会の決議で役員報酬が決定されてます。まずは役員報酬の総額を株式総会で決定し、その後取締役会で内訳を定めます。この時、議事録を作成しておかないと、役員報酬を損金計上するために必要な根拠資料が残りません。役員報酬を株主総会の決議で決める際は、議事録を残すことを徹底しましょう。 |
役員報酬を決められる時期
ここからは、役員報酬を決められる時期について説明します。
- 創業時に決定する
- 役員が着任した際に決定する
- 期首3カ月以内に変更する
以下で順番に詳しく見ていきます。
創業時に決定する
会社を設立した時には、設立後3か月以内に役員報酬を決めなければなりません。
まだ利益が上がっていない創業時に役員報酬額を決めるのは難しいのですが、節税対策に大きな影響がありますので慎重に設定する必要があります。
役員が着任した際に決定する
役員報酬は役員が職務執行を行った対価として支払われます。
役員は株主総会の決議に基づいて選任されることから、役員が職務の執行を開始する日は通常、株主総会の開催日となります。
したがって、役員就任後の役員報酬は、役員の着任時に決定し、役員選任の株主総会日後に支給されることとなります。
期首3カ月以内に変更する
役員報酬は変更可能です。
年に1回、事業年度開始から3か月以内の時期に役員報酬を改定できます。
一方で1度変更をすると、「やっぱり変える」ができないので変更する際も注意しましょう。
監修コメント
原則として、役員報酬はその事業年度の開始から3カ月以内に決めることになっており。その年の事業開始から3カ月の間に決定しなくてはならない、それ以降は変えてはダメだということです。 その期間を過ぎたら利益が出たからといって増額はできないほか、減額もできなくなりますので慎重に決めたいところです。また、事前の届け出が必要となる事前確定届出給与については、株主総会での決議から1カ月後、もしくは会計期間開始日から4カ月を経過する日のうちどちらか早い日に届け出ることが寛容です。 |
中小企業の役員報酬を決定する際に確認すべきこと
ここからは、中小企業の役員報酬を決定する際に確認すべきことについて、税務上のポイントを中心に解説します。
- 社会保険料
- 所得税
- 住民税
- 自社の売上の安定性
以下で順番に詳しく見ていきます。
社会保険料
社会保険料は、労災保険・雇用保険・厚生年金保険・健康保険・介護保険などで構成されています。
全国健康保険協会の公式ページなどで、報酬に対する料率が記載されています。
適宜参照して、どのくらいの社会保険料か確認する必要があります。
経営者側として、会社負担分がいくらになるのかも含めて確認しないと、手元のキャッシュで社会保険料が支払えず、資金がショートしてしまう可能性があります。
ちなみに、資金のショートとは運転資金が底をついてしまい、諸費用を支払えなくなってしまう状態をさします。
所得税
所得税は、個人の所得に対してかかる税金で、1年間の全ての所得から所得控除を差し引いた残りの課税所得に税率を適用し税額を計算します。
年収が増えるほど税率も増える累進課税方式になっており、国税庁が年収毎の税率を開示しています。
住民税
住民税とは地方税の一種で、都道府県が課税する道府県民税(東京都は都民税)と、市区町村が課税する市町村民税(区市町村民税)の総称です。
教育、福祉、救急、ゴミ処理など、地方自治体が提供する公共サービスをまかなうために使われます。
個人住民税の税率は区市町村民税6%、道府県民税・都民税4%で、合計10%となります。
また、所得税とは違い前年度の年収に対して課税されます。
自社の売上の安定性
報酬にかかる社会保険料や税金も考慮した上で、自社の売り上げが長期的に安定しているのかを確認しましょう。
そうしないと、高く設定した役員報酬を支払えない可能性があります。
役員報酬を決定する際は、売り上げ予測を低く見積もって、より実績値に近い値で設定すべきです。
監修コメント
役員報酬をあげすぎて、社会保険料や税金等々が足枷になり、利益が出ていても中々会社にお金が残らないことが多く、サラリーマンの時より豊かでないと思うところが多々あるようです。 現実的な数字をしっかり把握した上で役員報酬決めておきましょう。 |
役員報酬の決定を失敗するとどうなるのか
ここからは、もしも役員報酬の決定に失敗してしまったらどうなるのかについて説明します。
具体的には、以下のようなデメリットが考えられます。
- 売上に報酬が見合わず未払金が増えてしまう
- 会社にお金が残らない
- 固定費が支払えずに債務を抱える
以下で順番に詳しく見ていきます。
売上に報酬が見合わず未払金が増えてしまう
役員報酬の経理処理は、支払いが決定した時点で未払金として計上します。
いったん社会保険料等を考慮せず、役員報酬だけの仕訳を記載すると以下のようになります。
(借方)役員報酬 ●万円 (貸方)未払金 ●万円
この後、預金から実際に支払ったときに未払金を取り崩します。
仕訳は以下のようになります。
(借方)未払金 ●万円 (貸方) 普通預金等 ●万円
しかし、売上に見合わない高い報酬を設定してしまうと、この未払金の取り崩しができず、貸借対照表にいつまでも未払金が載ったままになってしまいます。
会社にお金が残らない
つづいて、キャッシュフロー上会社にお金が残らないリスクについての説明です。
たとえ役員報酬を支払えたとしても、稼いだ利益ギリギリの金額になってしまうと、その後に設備投資等の出費があった場合に耐えられない可能性があります。
固定費が支払えずに債務を抱える
急に大幅な減収があっても、会社負担分の社会保険料や税金は支払いが確定しています。
そこで、資金繰り上借入を起こすなど債務を抱えないと、経営ができなくなってしまいます。
監修コメント
会社に本当にお金が残らない本当の理由とは、収入よりも支出の金額が大きい状態であって、赤字だからキャッシュがなくなるというわけではありません。たとえ黒字であっても支出が大きく、借入金の返済や取引先への支払いが滞ってしまい、「黒字倒産」となるわけです。つまり、会社経営においてもっとも重要なのは、「利益」ではなく「キャッシュ」なので銀行残高を細かくチェックし資金繰りをしてください。 月次の利益率をどうするかも大事ですが、キャッシュをいくら残して投資にどう回し売り上げをどうあげていくかが大事です。 |
役員報酬に悩んだときは税理士に相談
役員報酬はさまざまな要因を考えて決めないと税負担が増えたり、企業の信用を損なう可能性があります。
また、収益によっては役員報酬を調整する必要もあるでしょう。
税務知識が豊富な税理士に相談しアドバイスを得ることでバランスの取れた役員報酬を決められます。
ただし、税理士であれば誰でも適切なアドバイスができるとは限りません。
役員報酬で悩んだ場合、会社の税金や社会保険料について詳しい顧問税理士に相談すると早く解決できることでしょう。
監修コメント
役員報酬はさまざまな要因を考えて決めないといけません。安易などんぶり勘定で決めてしまうと税負担が増えたり、企業の信用を損なう可能性があります。 また、収益によっては役員報酬を調整する必要もあるものです。 まずは専門家である税理士に相談し、アドバイスを得ることでバランスの取れた役員報酬が決められるのではないでしょうか。 |
役員報酬の決定は慎重になるべき悩んだら相談を
本記事では、役員報酬の決め方や役員報酬決定の際の注意点などについて説明してきました。
- 役員報酬は従業員(使用人)報酬と法人税法上扱いが異なる
- 役員報酬は創業から3カ月以内に決定可能で、以後期首3カ月以内に変更可能
- 役員報酬の決定の際には、社会保険料や各種税金と売上の安定性を加味する必要あり
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