職人が辞めない給与・人事評価制度の作り方|建設業【建設の参謀】
2026年6月29日
「給料を上げても職人が辞める」を解決する|固定費を上げずに定着率を高める第3の賃金設計と人事評価制度
「給料を上げたのに、それでも辞めていく」——多くの建設会社の社長がこの矛盾に悩んでいる。しかし、職人が辞める本当の理由は給料の「額」だけではない。「評価されていない」「頑張っても頑張らなくても同じ」「将来が見えない」——こうした不満が離職を引き起こしている。本稿では、固定費を上げずに職人の定着率を高める「第3の賃金設計」と、建設業に特化した人事評価制度の作り方を解説する。
結論:職人が辞める本当の理由は「給料の額」ではない
多くの社長は「給料さえ上げれば人は定着する」と考えている。しかしこれは半分正解で、半分間違いだ。給料が低すぎれば当然離職につながる。しかし給料が業界水準を満たしていても辞める職人には、別の理由がある。
退職した職人にヒアリングした結果、最も多い理由は以下の3つだ。給料の「額」を理由に挙げた人は、実は全体の3割程度に過ぎない。
第1位:「頑張っても頑張らなくても評価が変わらない」(公平感の欠如)
第2位:「将来どうなれるのか見えない」(キャリアパスの不透明さ)
第3位:「自分の仕事が認められていない」(承認欲求の未充足)
給料を上げる前に、まずこの3つの問題を解決することが先決だ。
「第3の賃金設計」とは何か
建設業の給与設計には、大きく3つのアプローチがある。多くの中小建設会社が陥っているのは「①か②だけ」の設計だ。会社を守りながら職人の意欲を引き出すには、③の「利益連動型」を組み合わせることが鍵になる。
第3の賃金設計:3層構造の詳細
推奨する「③基本給+評価給+決算賞与」の3層構造について、それぞれの役割と設計方法を解説する。
- 基本給(全給与の60〜70%):生活を守るための最低保証。役職・勤続年数・資格を基準に設定する。年功序列の要素を残しつつも、上限を設けることが重要だ。固定費の増加を最小限に抑えるため、毎年の昇給幅は小さく設定する。
- 評価給(全給与の20〜30%):技術力・貢献度・行動基準の評価に基づいて変動する部分。半期ごとに見直し、評価が上がれば増額・下がれば減額する。この変動部分があることで「頑張れば報われる」という実感が生まれる。
- 決算賞与(利益の一定割合):会社の利益が出たときだけ支給する成果還元。「会社が儲かれば自分にも返ってくる」という意識が、職人の経営参加意識を高める。業績が悪い年は支給しないため、固定費の膨張を防げる。
建設業に特化した「人事評価制度」の作り方
評価給を機能させるには、公平で納得感のある評価制度が必要だ。「社長の主観」「先輩への忖度」「仲の良さ」で評価が決まる会社は、優秀な職人ほど先に辞めていく。以下に建設業向けの評価項目と配点の設計例を示す。
📋 建設業 人事評価シート(設計例)
重要なのは、これらの評価基準を職人自身に事前に開示することだ。「何をすれば評価が上がるか」が分かれば、職人は自発的に行動を変える。評価基準が「ブラックボックス」になっている会社では、不満だけが積み重なっていく。
キャリアパスの設計:「将来が見える会社」を作る
給与と評価制度を整えても、「自分がこの会社でどうなれるのか」が見えなければ、優秀な職人は転職を考える。特に20〜30代の若手職人は、成長の機会とキャリアの見通しを強く求めている。
職位・等級を明確に定義する
「見習い→職人→主任職人→現場リーダー→現場監督」のような職位段階を設け、それぞれに必要な技術・資格・経験年数を明示する。「あと2年でリーダーになれる」という具体的な見通しが、定着率を大きく改善する。
資格取得を会社がサポートする
施工管理技士・各種技能士などの資格取得費用を会社が負担し、合格時に資格手当を支給する仕組みを作る。職人が「スキルアップすれば給料が上がる」と実感できれば、自発的な成長意欲が生まれる。
半期に1回の面談を義務化する
社長または上長が全職人と1対1で面談する機会を作る。「今の仕事の悩み」「将来やりたいこと」「評価への疑問」を聞くことで、不満が蓄積する前に手を打てる。面談なしに「突然の退職」を防ぐことはできない。
よくある失敗:制度を作っただけで終わる
人事評価制度を導入した建設会社の多くが、半年以内に「うまく機能しなかった」と感じている。その理由のほとんどは「制度の設計」ではなく「運用の問題」だ。
- 評価者(社長・上長)が評価基準を理解していない:制度を作っても、評価する側が基準を正確に理解していなければ、結局「感覚評価」に戻ってしまう。評価者訓練が必須だ。
- 評価結果をフィードバックしない:「評価した結果を本人に伝えない」「なぜその評価になったかを説明しない」会社では、職人の不満は解消されない。評価は必ず本人にフィードバックする。
- 制度を毎年見直さない:会社の状況や業界環境は変わる。評価制度も毎年1回は見直し、実態に合った基準に更新することが必要だ。
- 一部の職人だけが優遇される:社長と仲の良い職人、声の大きい職人が有利になる制度では、かえって不満が高まる。公平性こそが評価制度の命だ。
「給料を上げれば人は残る」という時代は終わった。職人が求めているのは「公平な評価」「成長の機会」「将来の見通し」だ。これらを仕組みで提供できる会社だけが、人材不足の時代を生き残れる。
人事評価制度は「完璧なものを作ろうとしない」ことが成功の秘訣だ。最初は60点の制度でも構わない。職人と一緒に作り、一緒に改善していく過程そのものが、会社への帰属意識を高める。「自分たちで作った制度」という実感が、最大の定着促進につながる。
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