GX(グリーントランスフォーメーション)とは?企業がGX推進に取り組むメリットについて解説
2023年1月24日近年、GX(グリーントランスフォーメーション)が経済界で注目されつつあります。DX
(デジタルトランスフォーメーション)という言葉は聞いたことがあっても、GXについて詳しく知っている人は少ないのではないでしょうか。
そこで本記事ではGX(グリーントランスフォーメーション)とはなにか、なぜ注目されているのか、企業がGXに注力する理由と、すでにGXを導入している企業の事例について詳しく解説します。
GXとは
GX(グリーントランスフォーメーション)とは、太陽光発電や風力発電といった自然エネルギー(クリーンエネルギー)を活用して、経済を含めた社会システムを改革、再構築し、経済活動によって排出される温室効果ガスを削減するとともに、企業の競争力の向上を両立させようとする考え方です。
GXは地球温暖化対策の一つとして広まった考え方で、温室効果ガスの排出量と自然環境によって温室効果ガスが吸収される量を均衡させようとするカーボンニュートラルを軸としています。カーボンニュートラルは世界的に喫緊の課題となっているため、企業としてGXに積極的に取り組む姿勢を見せることはブランド戦略の1つとなっているのです。
GXが注目されている理由
GXが注目されている理由には、地球温暖化がさらに深刻になっていることや日本政府による2050年カーボンニュートラルの実現に向けた取組があるのです。
さらに2023年時点の内閣総理大臣、岸田総理がGXを重点投資分野として位置づけたことも関係しています。ここからはGXが注目されている理由について、詳しく見ていきます。
地球温暖化の改善につながる
GXに世界規模で取り組むことによって、地球温暖化の改善につながることが期待されています。地球温暖化は年々深刻化しており、世界中で気候変動を引き起こしているのです。
日本に限った現象では、1898年〜2014年の間に100年あたりの計算で年間の平均気温が約1.19℃上昇しています。100年あたりの日本の年間平均気温は世界の年間平均気温が0.72℃上昇しているのに対して、上昇幅が大きいのが特徴です。この事実は、日本でGXがより注目される大きな理由といえるでしょう。
温暖化によって気候変動が起こっていることを示す具体的な事象は、一日の最高気温の変化です。一日の最高気温が35℃を超える日を「猛暑日」といいます。
ちなみに、「猛暑日」の分類が気象庁で使われるようになったのは、2007年4月からです。
つまり「猛暑日」という情報を提供せざるを得なくなるほど、気温が高い日が増えたことを意味します。日本のみならず世界的に見ても、平均気温は将来的に上昇するとみられており、これ以上の気候変動を防ぐためにも、世界規模での早急な地球温暖化を抑制する取り組みが求められているのです。
脱炭素化が世界基準で進んでいる
地球温暖化による気候変動のネガティブな影響を受けているのは、日本だけではありません。世界的にも平均気温の上昇が問題となっているため「脱炭素化」は世界規模で進んでいます。
2021年4月現在で、世界の125ヵ国以上の国が2050年のカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みを行っています。それぞれ国によってできることが異なるため、カーボンニュートラルへの取り組み方も様々です。
引用:第1部 第2章 第2節 諸外国における脱炭素化の動向 │ 令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021) HTML版 │ 資源エネルギー庁
たとえば日本では2050年までにカーボンニュートラルを実現することが法定化されています。基準は2013年度のCO2排出量です。
しかしEUやイギリスでは1990年のCO2排出量が基準となっています。そして世界最大のCO2排出国である中国はカーボンニュートラルを実現するゴールを2060年と定めています。
このようにそれぞれの国によって基準やゴールは異なるものの、カーボンニュートラルの実現という共通の目標を持って活動しているのです。これらの国が排出するCO2の量は、世界全体で排出されるCO2の約37%を占めています。
仮にこの37%のCO2排出が、カーボンニュートラルの実現によって実質的にゼロになると、脱炭素化が一気に進むだけでなく、地球温暖化を止める大きな一歩となるでしょう。
ESG投資が進んでいる
ESG投資とは「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の各単語の頭文字をとった言葉で、環境や社会、企業統治を積極的に行う企業に対して行われる投資のことです。
企業の事業戦略において、もはや環境や社会への配慮は「やって当たり前」となっています。だからこそ環境や社会に配慮した事業戦略を立て、かつ会社を成長させられる企業に対しての投資が注目されているのでしょう。
世界のESG投資額は年々増加しています。2016年の世界のESG投資残高は22兆8390億ドルで、4年後の2020年には35兆3010億ドルと大きく伸びていました。
残高が大きくなったことでESG投資の定義が見直される流れもありますが、ESG投資への投資資金の流入は今後も続くとみられています。
GXとカーボンニュートラルの違い
ではここでGXとカーボンニュートラルの違いについてみていきましょう。具体的な違いは、以下の表です。
GX | グリーントランスフォーメーション。太陽光発電や風力発電といった自然エネルギー(クリーンエネルギー)を活用して、経済を含めた社会システムを改革、再構築し、経済活動によって排出される温室効果ガスを削減するとともに、企業の競争力の向上を両立させようとする考え方。 |
カーボンニュートラル | 温室効果ガスの排出量と、森林などによる温室効果ガス吸収量を同じにすることで、温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにしようとする考え方。 |
つまりカーボンニュートラルは、GXの取り組みの一部ということになります。カーボンニュートラルの名称が取り上げられることが多くなったことから混同されることがありますが、違いを理解しておきましょう。
企業がGX推進に力を入れる理由
ここからは企業がGXの推進に力を入れる理由を詳しくみていきます。地球温暖化が世界的な喫緊の課題とはいえ、営利企業がコストをかけて会社を上げて取り組むからには、企業としても何らかのメリットがあるとおもわれるためです。企業がGX推進に注力する具体的な理由として以下が挙げられます。
- 環境に配慮した会社というブランディングができる
- コスト削減につながる
- 光熱費や燃料費の削減が可能
- 求職者へのイメージアップが可能
それぞれ詳しくみていきます。
環境に配慮した会社というブランディングができる
GXに会社を上げて取り組むことで「環境に配慮しながら利益を追求する企業」というブランディングができます。目標を掲げ、GXに取り組むだけでなく、たとえば2050年にカーボンニュートラルを実現できれば、よりブランドとしての価値は高まるでしょう。
企業価値を高めるプロモーション活動にコストを投入することと同じように、GXにコストをかけてでも取り組むことで、環境にも社会にも企業活動にもメリットのある「三方良し」の結果が期待できるのです。
コスト削減につながる
GXに取り組むなかで、さまざまなコストを削減できる可能性があります。どのような方法でどのコストの削減が実現できるのか、具体的にみていきましょう。
光熱費や燃料費の削減
GXに取り組む際、太陽光や風力を利用した再生可能エネルギ―とも呼ばれるクリーンエネルギーを利用することで、光熱費や燃料費を削減できます。もし余ったクリーンエネルギーがあれば、他社に販売することも可能です。
企業活動の中に積極的にGXを取り込むことで、光熱費をはじめとするコストの削減が可能となるだけでなく、コスト削減による利益率アップの効果も期待できます。
求職者へのイメージアップ
GXに具体的に取り組むことで、自社に就職や転職を希望する求職者へのイメージを上昇させられることが期待できます。GXは世界的な取り組みであり、GXに取り組むことで以下のようなイメージを求職者に与えることが可能です。
- 先進的な企業であること
- 環境に配慮できる企業であること
- 環境に配慮しつつも利益を追求できる企業であること
特に若い世代が自分たちが暮らす社会の未来を考えたとき、GXに積極的に取り組む企業と、GXに取り組んでいない企業があった場合、選ばれるのはGXに取り組む企業ではないでしょうか。求職者からの応募が増えれば、より優秀な人材を採用できる可能性が高まるでしょう。
経済産業省が設立したGXリーグとは
企業のGXへの取り組みにおいて注目すべき存在に「GXリーグ」があります。日本独自の取り組みである「GXリーグ」の概要について、ここでは詳しくみていきます。
設立背景
GXは世界的な取り組みであるがゆえに、企業単独では大きな成果が得られない可能性があります。そこでGXに取り組む企業と「官(政府や自治体)」、「学(大学や教育機関)」、「金(金融機関)」それぞれでGXに取り組む団体が一体となり、GXの実現と新たな市場を開拓するための議論や実践を行う場が経済産業省の主導で設けられたのが「GXリーグ」です。
目的
引用:GX LEAGUE ACTION|GXリーグ設立準備公式WEBサイト
GXリーグは、2022年度においてはまだ構想段階です。2023年1月時点で、リーグ発足に向けた準備が行なわれています。
GXリーグ設立の目的は主に以下について議論を行い、新たな市場ルールを形成したり、GXの取り組みを実践したりすることです。
- 2050年にカーボンニュートラルが実現した社会においてどのようなビジネスチャンスが生まれるのか
- カーボンニュートラルが実現することによって市民の生活はどのように変化するのか
- そのときの企業のあるべき姿とは
GXリーグは、GXに取り組む企業と「官(政府や自治体)」「学(大学や教育機関)」「金(金融機関)」が手を取り合い、協働する場といえます。
企業のGX導入事例
ここからは世界各国の企業のGX導入事例を実際にみていきます。GXを導入している企業の先行例をみることで、自社にも導入できるかを検討する際の判断材料となるでしょう。
アップル
引用:Apple、グローバルサプライチェーンに対して2030年までに脱炭素化することを要請
Appleジャパンから2022年10月に出されたニュースリリースによると、Apple社はサプライチェーンに以下の要請を行いました。
- 温室効果ガスの排出に対処するための新たな措置を取ること
- 脱炭素に向けた包括的なアプローチを取ること
Appleでは2020年以降、世界中のサプライチェーンおよびすべての製品製造過程においてカーボンニュートラルを実現する目標を掲げています。この目標を実現するために、サプライチェーンにも積極的なGXへのかかわりを求めたわけです。
具体的にはAppleが100%クリーンエネルギーで事業活動を行っている主要な製造パートナーに対してApple関連事業を脱炭素化する取り組みを評価し、毎年、進捗状況を追跡調査します。
やや製造パートナーにとっては厳しい要求となる可能性もありますが、引き続きAppleのパートナーでいるためにはカーボンニュートラルの実現は、避けては通れない課題なのでしょう。
ソフトバンク
引用:2030年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル2030宣言」を発表
ソフトバンクは2021年5月に「カーボンニュートラル2030宣言」を発表しました。宣言の具体的な内容は、2030年までに事業活動で排出される温室効果ガスを実質ゼロにすることです。
ソフトバンクが運営する全国の携帯基地局で使用される電力量は、ソフトバンクで使用する電力の半分以上を占めているといわれています。ソフトバンクの携帯事業を運用するには欠かせない基地局ではありますが、裏を返せば、基地局で使用する電力の一部でもクリーンエネルギーで代替できれば、温室効果ガスの排出量を大幅に削減できることになるのです。
2020年度における基地局で使用する電力の約30%を子会社から実質的に再生エネルギーにより発電された電力を購入するかたちで、カーボンニュートラルを前進させました。そして2022年度には基地局で使用する再生エネルギーの割合を、70%に引き上げる予定、とリリースが公表された2021年5月当時、発表されていました。
2023年1月時点では新たなプレスリリースは発表されていないため、ソフトバンクのカーボンニュートラルの道筋がどのようになっているかは、続報を待ちたいところです。
ソニー
引用:ソニー、気候変動領域における環境負荷ゼロの達成目標を10年前倒し
ソニーは2022年5月のプレスリリースで自社が2010年に設定していたGXの取り組み2つにおいて、それぞれ目標を10年前倒しすると発表しました。具体的な取り組みは、以下2つです。
- バリューチェーン全体におけるカーボンニュートラル達成目標を2040年へ10年前倒しする
- 自社事業においてすべて再生可能エネルギーを使用する達成目標を2030年へ10年前倒しする
2010年時点では遠かった目標が10年も前倒しできるようになったことは、再生エネルギー関連の技術が進歩したり、法整備によりクリーンエネルギーを取引できる仕組みが整ったりしたことが関係していそうです。
ソニーではグループ全体でクリーンエネルギー設備を導入したり、自社製品の消費電力量を減らす取り組みを加速させたりしています。大企業だからこそできる大規模な取り組みともいえますが、先達として当初の目標を10年前倒しできるほどGXをグループ全体で推進したその行動力は、評価に値するでしょう。
GXは環境を守りながら企業成長するために必要な施策
GXへの取り組みは、世界的にみても喫緊の課題です。さまざまな技術が進歩し、排出権の取引を行うことができるようになったことで「できる範囲の取り組み」を各企業が選べるようになりました。
自社でクリーンエネルギーを作る設備を導入できない場合は、クリーンエネルギーを購入することで、産業全体での温室効果ガス排出量を削減する、といった選択が可能になったのです。GXは環境を守りながらも、企業が成長するために必要な取り組みが可能です。
使用する電力を削減するとコストダウンが実現し、利益率を向上させることができます。
企業にとってGXはすでに「取り組むかどうか」を検討するものではなく「どう取り組むか」「いつまでに目標を実現するか」を検討する施策になったといえるでしょう。