運送業の2024年問題とは?企業が即時対応したい働き方改革について
2023年1月20日運送業では働き方改革の影響によって起こる、2024年問題を不安視する声が年々強まっています。2024年の法改正では物流業界の労働環境を改善するための関連法によって、物流業界の人手不足や売上の減少が加速すると予測されています。
本記事では2024年問題が実施される背景や運送業に与えるデメリットをわかりやすく解説します。運送業の経営者は法改正によって起こり得るデメリットを理解し、事前に対策を行いましょう。
運送業界の2024年問題とは
2024年問題は2024年4月から実施される働き方改革の影響で、運送業が大きな影響を受けるというものです。働き方改革関連法は2019年から実施されている法律で、労働者が安心して働ける環境を作るために、労働基準・労働時間・労働契約などの改善を行い、多様な働き方を促進する法律です。
法改正では、新たに運送業や建設業に対して労働時間の制限や時間外割増賃金の上昇が適用されます。
2024年に時間外労働の上限規制が設けられる
運送業では時間外労働に規制が設けられることになります。運送業は、これまで上限規制の猶予期間が設けられていたため、時間外労働に上限がありませんでした。
しかし、2024年4月以降は36協定を締結する際の時間外労働の上限は、年間960時間になります。時間外労働の上限規制には免除される要項も用意されているため、必ず確認してください。
【運送業に適用される上限規制の免除要項】
- 時間外労働と休日労働が月間で100時間未満
- 2〜6ヶ月の時間外労働が80時間以内
- 時間外労働が月間45時間を超えられる月は年6回まで
参考:建設事業及び自動車運転業務の上限規制の適用について|千葉労働局
2023年に時間外割増賃金率が上がる
2023年4月からは時間外労働に対する割増の支払い義務が設けられることになります。時間外労働に対する割増賃金は、これまで大企業にのみ適用されており、月60時間を超える時間外労働に対して50%以上の割増賃金を支払う必要がありました。
しかし、働き方改革関連法の改正に伴って中小企業にも同様の割増賃金の支払い義務が設けられます。これまで割増賃金を支払う必要のなかった中小企業の運送会社でも、労働者に対して50%以上の割増賃金を支払わなければいけません。
2024年問題が起こる背景
運送業は時間外労働や低所得といった労働環境の悪化による人材不足が深刻な業界です。ここでは、法改正による時間外労働の改善や割増賃金が運送業に必要な理由についてわかりやすく解説していきます。
労働環境の是正が必要であると考えられているため
運送業は労働環境の是正が必要不可欠です。働き方改革関連法の改正が適用されることになれば、労働者の労働時間が見直され、運送業で働きたい人材が増えることにも繋がります。
一方で時間外労働の改善によって、労働者の所得額も減少します。
対策として、企業側が新たに住宅補助や食事手当などを導入し、より良い待遇を整える必要がでてくるでしょう。
全産業でトラックドライバーの年間所得額が低いとされているため
運送業のドライバーは年間所得が低い職種です。平均年収を比較すると、全産業の平均が483万円なのに対して、トラックドライバーの平均年収は463万円とされています。法改正によって労働環境を改善しなければ、更なる人材不足が加速するでしょう。
有効求人倍率が高く人手不足
運送業は慢性的な人手不足を抱えている業界です。国土交通省が2018年に発表したデータによると運送業のドライバーの有効求人倍率は2.68を記録しており、業界全体で常に働ける人材を探している状態が続いています。
トラックドライバーの高齢化
運送業のトラックドライバーは高齢化が進んでいます。総務省の労働力調査によると運送業に従事している労働者の44%は40〜50代とされ、29歳以下の年代は約10%という結果になっています。そのため、40〜50代のドライバーが定年になる20年後は現在より深刻な人手不足のリスクを抱えています。
また、全日本トラック協会によると運送業を営んでいる事業者の64%が、既に人手不足を感じているというデータも残っており、ドライバーの高齢化によって人手不足が益々深刻化することが想像できます。
EC市場の拡大による物流量の増加
運送業は新型コロナウイルスの影響によるEC市場の急激なニーズの増加によって物流量が年々増加しています。しかし、運送業全体の人手不足が影響し、ドライバーに対しての労働時間は長くなる一方で、改善が難しい状況が続いています。
また、物流量の増加に比例して、再配達を依頼する消費者も増えており、ドライバーの業務効率の低下や業界全体の生産性が落ちる原因になっています。現代の日本はEC市場の拡大によって消費者が自宅にいながら自由に商品を購入し、手元まで届けられることが当たり前の環境です。
しかし、ドライバー不足や運送業の労働時間問題を解決することができなければ、物流が滞ってしまう事態にもなりかねません。
2024年問題が運送業界にとってデメリットとなる理由
法改正は運送業の労働環境を改善するために施行されます。しかし、これによって大きな打撃を受ける企業があることも事実です。ここでは2024年の法改正が運送業界に与えるデメリットを解説します。
新たに人を採用しなければいけない
時間外労働の規制や時間外割増賃金率の上昇に対応するために、企業側は新たな人材を採用しなければいけません。
しかし、運送業は慢性的な人手不足に悩んでいる業界です。法改正に対応するための人材を獲得できなかった企業は、これまでの業務を続けていくことが難しくなるケースもあります。
ドライバーの収入が減少する
運送業のドライバーは時間外労働による残業代で収入を割増している事例も多いです。しかし、法改正によって、時間外労働に上限が設けられるため、年間で960時間以上の時間外労働を行っていた労働者は、収入が減ってしまうリスクがあります。
運送業は平均年収が全産業に比べて低い業界であるため、時間外割増賃金率の上昇があったとしても、収入の低下を補うことは難しいです。また、運送業で働くドライバーの収入が減ると、別業界への転職によるドライバーの不足といった新たな問題が起こる危険性もあります。
運送会社の売上や利益が減少する
時間外割増賃金率の上昇によって、企業側は一人あたりの労働者に対して多くの人件費をかける必要があるため、これまでに比べて利益が減少してしまいます。
また、時間外労働の規制によって、一人あたりの労働時間が減ってしまうため、新たな人材を獲得できなければ、これまで続けてきた運送のサイクルを維持できなくなることもあります。運送のサイクルが滞ってしまった場合は、従来と同等の仕事を受けられなくなるため、企業全体の売上も大きく減少してしまいます。
時間外労働を是正しなければいけない
運送業界は他業界に比べて、法定の基準を大きく上回る時間外労働を行っている企業が多いです。
時間外労働の改善は運送業が抱える人材不足を解決するための近道とも言えますが、少ない人材の中で時間外労働を改善するためには、企業側は様々な施策を実施する必要があります。
時間外割増賃金の関係で荷主と予算の交渉をしなければいけない
企業側は人件費の増加に対応するためには、荷主に対して運賃の値上げを交渉する必要があります。
運送業界は新型コロナウイルスの影響によるインターネット通販の利用者の増加も影響し、物流量が年々増加しています。そのため、年々拡大するニーズに対応するだけの運賃を荷主に求める交渉が必要になります。
積極的なITの導入が必須となる
2024年問題に対応するためには運送業が積極的にITを導入することが必要不可欠です。運送業向けに展開されているITツールの代表例を見ると、予約受付システムや車両管理システムがあります。
予約受付システムは、タブレットやPCを利用してドライバー情報や入出庫情報を入力し、倉庫側の担当者が簡単に割り当てを指示できるITツールです。これにより、トラックの荷待ち時間を短縮し、ドライバーの労働時間を大きく削減できます。
車両管理システムは、走行中のドライバーの位置や走行状況をリアルタイムで把握し、オペレーターから指示を出せるITツールです。車両管理システムを導入することで、トラックの稼働率を向上し、少ない人員で効率の良い運送が可能になります。
また、本格的な管理システムの導入が難しい事業者は、ドライバー同士の打ち合わせや点呼がスムーズにできるコミュニケーションツールもおすすめです。2024年問題への対応に悩んでいる事業者は、自社で導入できるITツールを試験導入することから始めてみましょう。
2024年問題に覚えておきたい同一労働・同一賃金
働き方改革では、正規雇用と非正規雇用の間にある理不尽な待遇差を解消することを目的とした同一労働・同一賃金の法制化が進められています。これは運送業でも例外ではなく、正社員と非正規労働者の間での基本給や賞与といった待遇面の差を無くさなければいけません。
運送業の雇用形態は非正規労働者の割合が多い企業も珍しくなく、待遇の差がでない給与体系を作ることも必要です。また、雇用形態によって待遇に差が出る場合は、非正規労働者が納得できる理由を説明するための具体的な評価基準を用意することも大切です。
運送業の2024年問題は直前ではなくいまから対策をすべき
法改正は運送業に大きな影響を与える問題であるため、経営者の方は改革法の具体的な内容を理解することはもちろん、事前に対策を取ることが必要不可欠です。
特に法改正に伴って新たな人材を確保したいと考えている企業は、労働環境や待遇を予め整えることで、法改正の前に優秀なドライバーを確保することも可能です。
また、日常の業務を効率化するためのITシステムを導入し、少ない人材でこれまでと同じ業務を継続できる体制を作りを目指しましょう。