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No.83 「うちは免税のままでいい」と言う一人親方をどうするか?現場を止めずにインボイス対応を進める、ギリギリの交渉術

2025年12月30日

No.83 「うちは免税のままでいい」と言う一人親方をどうするか?現場を止めずにインボイス対応を進める、ギリギリの交渉術

「鈴木さん、頭が痛いよ。腕のいいベテランの一人親方に限って、『俺はインボイスなんて登録しねぇ。消費税なんか払ったら生活できねぇよ』って、テコでも動かないんだ…」

インボイス制度が始まってから、全国の下請け社長からこんな悲鳴が毎日のように届きます。
社長のお気持ち、痛いほど分かります。

会社としては、原則として全ての取引先にインボイス登録(適格請求書発行事業者の登録)をお願いしたい。そうしないと、会社が負担する消費税が増えて利益が吹っ飛んでしまうから。
でも、無理強いして「じゃあ、他の現場行くわ」とへそを曲げられたら、明日の現場が止まってしまう。

この板挟み、まさに地獄ですよね。

今回は、このデリケートな問題にどう立ち向かうか。
現場を止めず、親方との関係も壊さず、それでいて会社の利益を守るための、ギリギリの「交渉術」について、私の視点でお話しします。

なぜ、親方は頑なに登録を拒むのか?

交渉の基本は、相手を知ることです。
親方たちが登録を嫌がる理由は、大きく分けて二つです。

① 「手取りが減る」という恐怖

これが一番大きいです。これまで免税事業者として、受け取った消費税をそのまま自分の懐(生活費)に入れていたわけですから、それを国に納めろと言われたら、実質的な「減収」になります。
「ただでさえ資材高で苦しいのに、これ以上いじめないでくれ」というのが本音でしょう。

② 「面倒くさい」というアレルギー

現場一筋で生きてきた職人にとって、税務署への届出や確定申告の書類作成は、苦痛以外の何物でもありません。
「難しいことは分からねぇ」「税理士に頼む金ももったいない」と、思考停止してしまっているのです。

この二つの不安を取り除かない限り、いくら正論をぶつけても彼らは動きません。

社長が腹をくくれ。曖昧な態度は混乱を招く

交渉に入る前に、社長自身が方針を明確にする必要があります。

  • 方針A:「例外なく、全ての協力業者に登録を義務付ける」(未登録なら取引停止、または消費税分の値引きを徹底する)
  • 方針B:「基本は登録を促すが、どうしても難しい重要人物には、期間限定で経過措置(※)を利用して様子を見る」

※経過措置:インボイス制度開始から一定期間は、免税事業者からの仕入れでも一定割合を控除できる特例。

最悪なのは、「まあ、なんとかなるだろう」と曖昧な態度を取り続けることです。
社長がフラフラしていると、真面目に登録した親方から「なんでアイツだけ特別扱いなんだ」と不満が出て、組織が崩壊します。

まずは社長が、「うちはこうする」と腹をくくってください。

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現場を止めない、ギリギリの交渉「3ステップ」

方針が決まったら、いよいよ親方との交渉です。喧嘩腰になってはいけません。あくまで「これからもパートナーとしてやっていくため」の話し合いです。

Step 1:まずは「聞く」。不安を受け止める(共感)

いきなり「登録してください」と書類を突きつけてはいけません。
まずは、親方の言い分をじっくり聞いてあげてください。

「親方、インボイスの話だけど、やっぱり不安だよな。手取りが減るのは痛いし、手続きも面倒だし、その気持ち、すげぇ分かるよ」

と、まずは相手の立場に立って共感を示します。敵ではないことを分かってもらうのです。

Step 2:現実を突きつける(脅しではなく事実として)

共感した上で、世の中の現実を冷静に伝えます。

「でもな親方、世の中の流れはもう止められねぇんだ。元請けからも『インボイス登録してない業者を使うな』って圧力がかかってきてる。
このままだと、俺も親方に仕事を頼みたくても、頼めなくなっちまうかもしれないんだ」

「登録しない自由」はあるが、その代償として「仕事が減るリスク」「取引条件が悪くなるリスク」があることを、包み隠さず伝えます。

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Step 3:逃げ道(支援策)を用意して、背中を押す

最後に、不安を取り除くための具体的な支援策を提示します。

  • 「面倒くさい」対策:
    「手続きが分からないなら、うちの事務員に手伝わせるから。税理士も紹介するよ。だから一緒にやろう」と、事務負担を肩代わりする姿勢を見せる。
  • 「手取りが減る」対策(※ここは慎重に):
    会社の体力次第ですが、どうしても手放せない親方に対しては、「登録してくれたら、最初の1年間だけ、消費税負担分の半分を単価に上乗せして調整するよ」といった、激変緩和措置を提案するのも一つの手です。(ただし、他の親方との公平性には十分注意が必要です)

「ここまでやるから、俺の顔を立ててくれ。これからも一緒に良い現場を作っていこうや」と、最後は情に訴えかけて口説き落とすのです。

まとめ:これは「金」の話ではない。「未来」の話だ

インボイス対応は、確かに面倒な問題です。
しかし、これを機に「なあなあ」だった協力業者との関係を見直し、真のビジネスパートナーとしてお互いに自立するための「通過儀礼」だと捉えてみてください。

目先の数万円の損得で揉めるのではなく、「この先10年、一緒にやっていく仲間かどうか」を確かめ合う。
そんな覚悟を持って、親方と向き合ってみてください。

本気でぶつかれば、きっと分かってくれるはずです。彼らも、プロの職人なんですから。


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