P/LとB/Sの構造を読み解き経営を最適化する技術
2025年11月22日
年商が5億円を超え、組織が大きくなっているにも関わらず、「なぜか手元にキャッシュが残らない」「銀行からの評価(格付け)が上がらない」と悩む経営者は少なくありません。
その原因の9割は、経営者がP/L(損益計算書)の「売上」しか見ておらず、B/S(貸借対照表)の「財務構造」を無視している点にあります。
本稿では、外資系コンサルティングのフレームワークを用い、ドンブリ勘定の下請け経営から脱却し、銀行評価とキャッシュフローを最大化するための「構造最適化」の手法を解説します。
1. 問題提起:建設業を蝕む「P/L至上主義」の罠
多くの建設会社社長は、毎月の「完成工事高」と「粗利益」には敏感です。しかし、決算書が出来上がった段階で初めて「今期はこれだけ利益が出た(あるいは出なかった)」と確認するスタイルでは、手遅れです。
P/L(フロー)だけを追いかける経営は、以下の致命的な構造欠陥を見落とします。
- 未成工事支出金の肥大化:売上を作るためにキャッシュが先に流出し、資金繰りを圧迫する。
- 借入依存体質の放置:「売上があれば返せる」という楽観論により、自己資本比率が低下し、銀行格付けが下がる。
- 資産の質:回収不能な売掛金や、稼働していない重機がB/Sに計上され続け、企業価値を毀損している。
2. 結論:「売上」ではなく「純資産」を最大化せよ
経営の最適化とは、売上を増やすことではありません。「B/Sの純資産(自己資本)を積み増し、強固な財務基盤を作ること」です。
売上はあくまで手段であり、目的は「利益剰余金」としてB/Sに蓄積することです。この視点の転換(パラダイムシフト)がなければ、年商10億円の壁を越える際に資金ショートのリスクが激増します。
図1:経営の目的はP/Lの利益をB/Sの純資産へ変換すること
3. 理由:なぜ銀行は「B/S」しか見ないのか
銀行が融資判断を行う際、最も重視するのは「格付け(スコアリング)」です。このスコアリングの指標の大部分は、B/Sから算出されます。
銀行が見ている主要KPI
- 自己資本比率:総資産のうち、返済不要な資本がどれだけあるか。(目標:20%以上)
- 債務償還年数:営業利益で借入金を何年で返せるか。(目標:10年以内)
- 流動比率:短期的な支払い能力があるか。(目標:120%以上)
つまり、いくらP/Lで売上が伸びていても、借入金が過大で自己資本比率が低ければ、銀行は「危険な会社」と判断します。その結果、追加融資がストップし、黒字倒産のリスクが高まります。これが構造的なメカニズムです。
4. 実践:P/L・B/S最適化の3ステップ
では、具体的に何をすべきか。外資系コンサルティングで実行する標準的な手順は以下の3段階です。
Step 1. 粗利管理の徹底(P/Lの最適化)
B/Sを良くする原資はP/Lの利益です。まず、「ドンブリ勘定」を廃止してください。
- 実行予算の作成:着工前に必ず実行予算を組み、目標粗利を確定させる。
- 原価のリアルタイム把握:工事台帳をデジタル化し、発注段階で予算超過を検知する仕組みを作る。
Step 2. 資産のダイエット(B/Sの圧縮)
分母(総資産)を小さくすることで、分子(自己資本比率)を高めるテクニックです。
- 不良資産の処分:1年以上稼働していない重機、車両、過剰在庫を売却し、現金化または借入返済に充てる。
- 売掛金の早期回収:回収サイトの長い元請けとの交渉、あるいはファクタリング等の検討も含め、売掛金(貸したお金)を現金に戻す速度を上げる。
Step 3. 負債の組み替え(財務戦略)
短期借入金(1年以内の返済)が多いと資金繰りが苦しくなります。メインバンクと交渉し、長期借入金への一本化(借り換え)を行うことで、月々の返済額を減らし、手元キャッシュを厚くします。
図2:財務体質を強化する順序
5. 事例:年商7億円企業のV字回復
実際にある地方の土木工事会社(年商7億円)の事例です。
- 課題:売上は横ばいだが、資金繰りが毎月綱渡り。銀行格付けは「要注意先」手前。
- 施策:
- P/L:不採算な民間工事(粗利10%以下)から撤退し、公共工事比率を高めた。
- B/S:使っていない資材置き場の土地を売却し、借入金を一部返済。
- 交渉:銀行に対し「経営改善計画書」を提出し、返済期間の延長(リスケではなく借換)に成功。
- 結果:年商は6.5億円に微減したが、営業利益は2,000万円増加。自己資本比率が10%→18%へ改善し、新規融資枠を獲得。
まとめ:経営者の仕事は「現場」ではなく「財務」にある
現場の技術力は大切です。しかし、会社を永続させるための燃料は「キャッシュ」であり、エンジニアリングすべき対象は「財務構造」です。
「売上(P/L)」という虚栄にとらわれず、「純資産(B/S)」という実質を追求してください。それが、不安定な下請け構造から脱却する唯一の道です。
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