建設業の“未来倒産”を防ぐキャッシュフロー経営の始め方
2025年11月24日
建設業の“未来倒産”を防ぐキャッシュフロー経営の始め方
建設業では「黒字倒産」という言葉が現実のものとなっています。損益計算書(P/L)上では利益が出ているのに、現金が不足して支払いができない――これが未来倒産の典型です。会社を守るのは利益ではなくキャッシュ。この原理を経営に落とし込み、“未来倒産”を防ぐ実践ステップを解説します。
1. “未来倒産”とは何か
未来倒産とは、今は黒字でも、将来の資金枯渇が確定している状態です。たとえば「利益計上した大型案件の入金が3か月後」「その間に外注費・給与・税金の支払いが重なる」など。損益では黒字でも、資金がショートする時点で倒産リスクが顕在化します。
よくあるシナリオ
- 完成工事の請求が遅れ、翌月に資金不足
- 未成工事支出金が膨張してキャッシュが枯渇
- 利益が出ても借入返済で現金が流出
2. 利益とキャッシュの違いを理解する
損益計算書(P/L)は「売上−費用=利益」を示しますが、現金の増減は反映されません。利益は発生主義、キャッシュは現金主義。現金化されていない利益は、実在しない利益です。
現金の動きを読む3つの視点:
- 営業CF:本業でどれだけ現金を生むか
- 投資CF:設備や資産にどれだけ投資しているか
- 財務CF:借入や返済、配当などの資金活動
3. キャッシュフロー経営の三本柱
① 資金繰り表の“先読み運用”
資金繰り表は“今の現金”ではなく、未来90日先の現金残高を見るツールです。入金予定・支払い予定を日次で可視化し、「資金谷」が発生する時期を前倒しで把握します。
② 運転資金の最適化(CCC短縮)
CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)=回収日数+在庫(出来高)日数−支払日数。
この期間を短縮することが、キャッシュ創出力を上げる唯一の道です。
③ 投資と返済のバランス管理
成長投資も、返済負担もキャッシュに影響します。投資判断は利益ではなく、営業CFが黒字であることを前提に。
4. CFO視点で見る建設業のキャッシュリスク
- 出来高請求の遅延:請求サイクルが月をまたぐとCF悪化。
- 外注比率の高さ:支払いサイトが短く、キャッシュアウト先行。
- 未成工事支出金:材料・人件費が資産計上されて見えにくい。
- 税金・賞与・保険料:年2回の“資金の谷”を事前予測。
5. キャッシュフロー経営導入ステップ
- ① 直近6か月の資金繰り表を作成
- ② 未来3か月の入出金予定を記入
- ③ キャッシュの“谷”がある週を特定
- ④ 対策を検討(前倒し請求・支払延長・資金調達)
- ⑤ CFO or 外部顧問と毎月レビュー
6. キャッシュフロー経営を定着させる文化
キャッシュフロー経営は、経理部門だけの仕事ではありません。現場・営業・経営の全員が、「利益よりキャッシュ」という意識で行動することが重要です。
- 毎週の会議で「資金繰りKPI」を共有
- 契約書・請求書の発行タイミングを統一
- 月次決算を10営業日以内に完結
7. “未来倒産”を防ぐ最終チェックリスト
- □ 営業CFが3期連続でプラス
- □ 資金繰り表を毎週更新している
- □ 借入返済と投資支出のバランスが取れている
- □ 安全水位(最低必要現金)が把握できている
- □ CFOまたは財務顧問が定例で関与している
まとめ|キャッシュは会社の血液である
キャッシュは「会社の血液」です。利益という“健康診断書”だけで安心してはいけません。
未来倒産を防ぐには、キャッシュフロー経営の仕組み化が不可欠です。財務を“見える化”し、未来を読みながら経営する力を持てば、黒字でも倒れない強い会社がつくれます。
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