資金繰り早見表でキャッシュフローを可視化する方法|建設業の実務ガイド
2025年10月19日
資金繰り早見表でキャッシュフローを可視化する方法
建設業の資金繰り悪化は「利益」ではなく“入金の遅れ × 先払いの多さ”が原因です。
そこで、入出金を1枚で俯瞰する資金繰り早見表を使い、日次で残高・不足見込み・要交渉項目を即把握できる状態をつくります。
1. 「資金繰り早見表」とは?(目的と要件)
目的
- 入出金の日付と金額を横一列で見せ、資金ギャップを即発見
- 不足が出る日を事前に特定し、前受・出来高・支払交渉などの打ち手に繋げる
- 銀行面談で月次資金繰りの説明能力を示し、評価を上げる
要件
- 粒度は日次(4~8週間)
- 入金:請求日・検収日・サイト別に列を分ける
- 出金:外注・材料・人件費・諸経費を分解
- 自動で日次残高・最小残高・不足日を計算
2. シート設計(列とロジック)
| 列 | 説明 | 入力/自動 |
|---|---|---|
| 日付 | 営業日ベースの連番(祝日は任意) | 自動 |
| 期首残高 | 開始日の普通預金残高 | 手入力 |
| 入金(出来高) | 出来高請求の入金予定 | 手入力/連携 |
| 入金(検収後) | 検収→請求→サイトを反映した入金 | 手入力/連携 |
| 出金(外注) | 協力会社への支払 | 手入力/連携 |
| 出金(材料) | 資材仕入 | 手入力/連携 |
| 出金(人件費) | 給与・社保等の固定 | 手入力/連携 |
| 出金(諸経費) | 家賃・車両・通信費など | 手入力/連携 |
| 日次純増減 | 入金合計-出金合計 | 自動 |
| 当日残高 | 前日残高+日次純増減 | 自動 |
| 不足フラグ | 当日残高が閾値未満で警告 | 自動 |
数式例(Excel)
※行2を見出し、行3を最初の日とします。
- 日次純増減(I列)…
=SUM($C3:$D3)-SUM($E3:$H3) - 当日残高(J列)…
=IF(ROW()=3,$B3,$J2+$I3) - 不足フラグ(K列)…
=IF($J3<$M$1,"不足","")※M1に閾値(例:5,000,000) - 最小残高 …
=MIN($J:$J)(サマリーセル)
3. 早見表の「見方」とアラート運用
見るポイント(毎朝30秒)
- 最小残高(今週・今月)
- 不足フラグの日付
- 大型入出金(税金・ボーナス・出来高)
アラート運用(不足日が出たら)
- 前受・出来高の前倒し請求を打診
- 外注・材料のサイト延長交渉(30→45日 等)
- 短期枠の利用と償還計画の提示(銀行向け)
4. プロジェクト別の“ひも付け”で原因を特定
案件ごとの入出金をサブ表で管理し、メイン表に集計します。
| 案件 | 出来高入金 | 検収後入金 | 外注 | 材料 | 粗利見込 |
|---|---|---|---|---|---|
| 案件A | 3,000,000 | 0 | 1,600,000 | 900,000 | 500,000 |
| 案件B | 0 | 4,800,000 | 2,400,000 | 1,600,000 | 800,000 |
ピボットで「月別・案件別・カテゴリ別」で可視化すると、資金圧迫源が一目で分かります。
5. よくある落とし穴と対策
- “請求日ベース”で管理してしまう → 実際の入金日で必ず登録
- 人件費・社保の月ズレを見落とす → 支払期日を固定で自動展開
- 税金・賞与・保険年払など年6~8回の大型出金を未計上 → 年間カレンダーで先出し
- 現金主義の赤字案件を継続 → 案件別CFで“着手前に”棄却判断
6. 銀行評価を上げる「月次提出セット」
- ① 資金繰り早見表(4~8週間)
- ② 月次残高推移(最小残高・期末見込)
- ③ 対応策メモ(前受・出来高・サイト交渉の進捗)
この3点を持参すると、「数字で語れる経営」と評価され、格付け改善が期待できます。
付録|日付の自動展開(Excel関数例)
- 開始日(A3)に手入力 →
=A3+1を下方向にコピー - 営業日だけにする場合 →
=WORKDAY(A3,1,祝日範囲) - 条件付き書式例(不足ハイライト) → ルール:
当日残高<$M$1で背景を赤
まとめ
- 資金繰りは「利益」ではなくタイミングの管理が勝負
- 日次の早見表で不足日を先読みし、前受・出来高・サイト交渉で埋める
- 銀行には月次提出セットで説明力を示す