お問い合わせ 資料請求

評価されない仕事をする意味|ハイデガーと共に考える現場と存在

2025年7月25日
―誰にも見られず、誰にも褒められない。けれども、それでも。

エスエスコンサルティング株式会社の鈴木進一です。

私たちは、建設業に生きる多くの経営者・現場監督・職人の方々と日々対話を重ねています。
その中で、こんな言葉を何度となく耳にしてきました。

「どうせ誰も気づかないから、やらなくていいじゃないか」
「報われない仕事って、意味あるのか?」
「がんばっても評価されないし、給料も変わらない」

これらは、働く人の正直な本音です。
そして同時に、「働く意味」そのものを深く問いかけるメッセージでもあります。

本稿では、この問いに対して“哲学の力”を借りて向き合います。
とくに、20世紀の哲学者マルティン・ハイデガーが説いた「現存在(ダーザイン)」の概念を手がかりに、「誰にも評価されない仕事の意味」とは何かを再考してみたいと思います。



第1章|評価されない仕事とは、どんな仕事か?



1-1. 現場で“評価されない仕事”は山ほどある

建設現場で評価される仕事とは、何でしょうか?
一般的には「工程通りに終わらせる」「事故ゼロで引き渡す」「施工精度が高い」などの、目に見える成果です。

しかし、現場を支えるのは、それ以外の“目に見えない努力”です。
• 誰よりも早く来て、誰にも見られないまま行う朝の清掃
• 誰も気づかないような5mmのずれを、黙って修正する作業
• 納期ギリギリの中で、他職種の段取りを気遣う声かけ
• 暑い日にも、雨の日にも、変わらぬ気配りを続ける整理整頓

これらはすべて「評価されない仕事」です。
でも、もしこれらを誰もやらなくなったら?
建設業は、たちまち崩壊します。



1-2. 「評価」を前提にする働き方の限界

近年、働く人の意欲低下や、若手の早期離職が社会問題になっています。
その背景には、“評価されない仕事=無意味”という風潮があると私は感じています。

仕事に意味があるかどうかを、「評価されるかどうか」で判断してしまう。
• いいねが多い投稿は“価値がある”
• 給料が高い仕事は“立派だ”
• 表彰される仕事は“すごい”

確かに評価はモチベーションになります。
でも、評価ばかりを基準にしていると、
自分の存在が「他人の目」によってしか証明されなくなってしまうのです。



第2章|ハイデガーと“現存在”という考え方



2-1. 哲学は、現場に関係あるのか?

「哲学なんて現場の仕事に関係あるのか?」

そう思う方もいるかもしれません。
しかし、哲学とは「なぜ働くのか」「なぜ生きるのか」といった根本の問いを扱う学問です。
• なぜ、この仕事をするのか?
• なぜ、この日々を積み重ねるのか?
• 誰にも見られなくても、なぜそれを続けるのか?

こうした問いは、**建設業という“人生の現場”**においても、極めてリアルなものです。



2-2. ハイデガーの「現存在(ダーザイン)」とは

ハイデガーは、著書『存在と時間』で「人間とは“現存在(ダーザイン)”である」と定義しました。
この現存在とは、単なる“存在”ではなく、以下のような特徴を持つ存在です。
• 意味を問う存在
• 自分が世界の中にいることを意識する存在
• 他のモノとは異なり、自分の“在り方”を選べる存在

つまり、「自分は、なぜここに、こうして生きているのか?」を問うことができる存在なのです。



2-3. ハイデガーが語る「本来的な生き方」

ハイデガーは「本来的な生き方(eigentliches Leben)」と「非本来的な生き方(uneigentliches Leben)」を区別しました。
• 非本来的な生き方:他人の価値観に流され、自分を見失う状態
• 本来的な生き方:自分で意味を問い、自分の選択で生きる状態

「誰かに褒められるためにやる仕事」は、非本来的かもしれません。
しかし、「自分がその仕事に価値を見出しているからやる」という選択は、**本来的な“存在のあり方”**に近づく行為だと言えるのです。



第3章|現場と“存在の意味”を結び直す



3-1. 「存在」は、役職や給与では決まらない

建設業では、「評価されない仕事」が会社やチームを根底で支えています。
それは、**役職や給料では測れない“存在の貢献”**です。

たとえば、職長が現場で怒鳴らなくなったことで、職人同士の関係性が良くなった。
あるいは、何も言わずに毎日現場を掃除していた若手が、無事故を続ける安全文化を育てていた。

こうした存在は、“評価”では語りきれない価値を持っています。



3-2. 「やる理由」が“他者”から“自分”に変わるとき

ハイデガー的に言えば、「評価されない仕事をやる理由」は他者から自分に戻ってきた瞬間に、
仕事が“存在”に昇華するのです。
• 「誰も見てなくても、自分はやる」
• 「それが、自分の信じる“よい仕事”だから」

この選択は、存在の尊厳を守る行為です。
それこそが、哲学と現場が交差する瞬間だと思うのです。



第4章|経営者として、どう向き合うか



4-1. 見えない仕事に報いる「哲学的人事評価」

経営者として、見えない努力に報いる方法は何か?

私はそれを「哲学的人事評価」と呼びます。
それは、数字に出ない“現場の空気”を汲み取る仕組みです。
• 毎日整理整頓していた人を「安全評価」で評価する
• 職場の雰囲気改善に貢献した人を「文化貢献枠」で表彰する
• 朝早く来て清掃していた人の“習慣”を新人教育に活かす

こうした取り組みが、“存在を認める経営”を形づくります。



4-2. 採用や定着にもつながる「見えない価値」の言語化

現代の若者は、「何のために働くのか?」に敏感です。
報酬や職位だけでなく、“働く意味”を言葉にできる会社に惹かれます。

だからこそ、会社の理念や職人の誇りを、哲学的に言語化することは、
ブランディング・採用・定着・育成すべてに効く戦略です。



【おわりに】存在の美学としての仕事



評価されない仕事をする人たちがいる。
誰にも見られずに、静かに現場を整える人たちがいる。

その姿にこそ、“仕事の美しさ”が宿っていると私は思います。

そしてその美しさは、ハイデガーが言うように、
「現存在」――意味を問う存在者のあり方としての働き方にほかなりません。

建設業の現場には、哲学が生きている。
その価値を、私たちはもっと大切にしていい。






次の一歩は、経営者としての“問い”を持つことから。

「我が社は、いまどう進化させるべきか?」

その問いに、私たちは共に向き合います。
30分の無料戦略相談で、現状の可視化と次のアクションを見つけてください。

無料相談・お問い合わせはこちら
※経営者・営業責任者限定|完全予約制

関連記事