粗利率を5%上げる“管理会計シナリオ”
2025年11月20日
粗利率を5%上げる“管理会計シナリオ”
見積・歩掛・購買・出来高・原価差異・回収を一本のシナリオでつなぎ、建設業の粗利率を着実に+5%改善するための実践ガイド。
- 要点サマリー(結論)
- なぜ“シナリオ”が必要か
- 粗利+5%の5レバー
- モデル設計:見積→実行予算→予実
- KPI体系とダッシュボード
- ミニケース:+5.8%の改善例
- 12週間導入ロードマップ
- 実装チェックリスト
- FAQ
要点サマリー(結論)
- 粗利+5%は「単発のコスト削減」ではなく、見積から回収までの一貫設計で狙う。
- 改善原資は主に価格(単価)、歩掛・生産性、購買・外注、仕様最適化、案件ミックスの5レバーから生まれる。
- 各レバーは“事前化(見積・実行予算側)”と“モニタリング(出来高・差異)”で効き方が異なる。両輪で設計する。
- 成果の可視化に必須なのは出来高ベース原価・進捗率の標準化と差異の原因分類(価格・歩掛・購買・段取り・設計変更・外的要因)。
- 導入は全社一斉ではなく、代表案件10件からのスプリントが成功確率を高める。
なぜ“シナリオ”が必要か
粗利の実態は、現場の場当たり的な節約ではほとんど動きません。見積時に“勝てる条件を内蔵する”ことと、実行段階で“勝てる型を守る”ことの両方が揃って初めて、案件ごとのばらつきを抑え、全体平均で+5%を達成できます。
比喩: 粗利改善は“減量”ではなく“体質改善”。一時的な食事制限(コストカット)ではなく、摂取(受注条件)と代謝(生産性)を同時に整えるとリバウンドしない。
粗利+5%の5レバー
1)価格・単価(+1.0〜1.5%)
- 付加価値別の単価帯を設定(標準/高難度/短納期)。
- 値引き基準の明文化(最終決裁条件と上限)。
- オプション・追加工事の単価表を別紙化し、契約前に提示。
2)歩掛・生産性(+1.0〜1.5%)
- 出来高の単位×標準工数を定義(段取り時間を独立計上)。
- 段取りの再利用化(仮設・搬入・共通費のテンプレ化)。
- 多能工・二人体制の閾値ルール化(安全とスピードの最適点)。
3)購買・外注(+1.0〜1.5%)
- 相見積3社・年間単価表・ロット割引の標準条項化。
- 支払サイト最適化(前払/出来高払い/保留金の設計)。
- 内製・外注の境界ルール(工数・特殊技能・波動吸収)。
4)仕様最適化(+0.5〜1.0%)
- 代替仕様のカタログ化(コスト・納期・性能の三点比較)。
- VE/VA提案を見積段階で“価格に織り込む”。
- 設計変更の承認フローと追加見積のタイミングを固定。
5)案件ミックス(+0.5〜1.0%)
- 高付加価値案件比率の目標(例:月受注の30%)。
- 地域・工種・元請別の採算マップで集中と選択。
- 閾値割れ(粗利率X%未満)の“受注禁止”ルール。
モデル設計:見積→実行予算→予実の一体化
① 見積テンプレ(標準歩掛・段取り・リスク費)
- 出来高単位(m、㎡、台、面、配管mなど)ごとに標準工数・標準副資材・段取りを明示。
- 短納期・高難度・夜間などの加算係数を事前定義。
- リスク費(雨天・夜間搬入・仮設増)を「条件付きライン」で明記。
② 実行予算(見積→実行の自動分解)
見積明細を「材料」「労務」「外注」「共通費」「段取り」に自動分解し、出来高ベースの標準原価を作成。出来高の進捗入力に応じて計画原価(時点)が動く仕組みにする。
③ 予実モニタリング(出来高・差異・原因)
| 項目 | 定義 | 頻度 | 責任 |
|---|---|---|---|
| 出来高進捗率 | 出来高/総出来高(工種別) | 週次 | 現場 |
| 原価率(時点) | 累計原価/出来高売上 | 週次 | CFO/管会 |
| 原価差異 | 実績原価−標準原価(材料・労務・外注・段取り別) | 週次 | CFO/PM |
| 設計変更インパクト | 見積変更差額とスケジュール影響 | 都度 | 営業/PM |
KPI体系とダッシュボード
見積ヒット率
粗利率(案件/月/元請別)
出来高進捗偏差
材料単価指数
標準工数遵守率
段取り時間比率
設計変更回収率
高付加価値案件比率
ダッシュボードは「案件×工種×元請×地域」の軸で切替可能に。月次会議ではトップ3の改善原資(価格、歩掛、購買)を特定し、翌月の見積テンプレへ反映するサイクルを固定します。
| ダッシュカード | 定義 | 閾値 | アクション |
|---|---|---|---|
| 標準工数遵守率 | 実績工数/標準工数 | <95% | 段取り手順の刷新、2人作業の閾値見直し |
| 材料単価指数 | 主要品の加重平均単価指数 | >102 | 相見積の徹底、ロット交渉、代替仕様の提案 |
| 設計変更回収率 | 追加見積回収額/影響額 | <90% | 事前条項明文化、承認フローのタイムボックス化 |
| 高付加価値比率 | 月受注額に占める高採算案件比 | <30% | 営業ターゲット再設計、受注禁止ラインの運用 |
ミニケース:+5.8%の改善例
条件 年商1.0億、原価率90%(粗利10%)。主要工種A・Bで全体の70%を占める。材料比率45%、労務35%、外注10%、共通費10%。
| 施策 | 効き方 | 改善幅(粗利%) | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 材料相見積・年間単価 | 価格差 | +1.2% | 主要10品の平均2.5%低減×材料45% |
| 歩掛標準化・段取り削減 | 歩掛差/段取り差 | +1.6% | 標準工数比3%改善×労務35%+段取り10% |
| 高付加価値ミックス | 単価/ミックス | +1.0% | 月受注の30%を高採算に配分 |
| 仕様最適化(VE/VA) | 仕様差 | +0.8% | 代替仕様の3%圧縮×材料/外注55% |
| 追加見積の回収率UP | 設計変更 | +1.2% | 回収率75→95% |
| 合計 | +5.8% | ||
これらは見積・実行・モニタリングが一体で設計されているときにのみ再現性が高まります。
12週間導入ロードマップ
- W1–2:現状診断(10案件分の原価票・出来高・設計変更ログを収集、差異原因を仮分類)
- W3–4:標準設計(歩掛標準・段取り標準・材料単価表・追加見積条項をドラフト)
- W5:見積テンプレ改修(加算係数・オプション価格・受注禁止ラインを内蔵)
- W6:実行予算の自動分解(見積→標準原価→出来高連動)
- W7–8:ダッシュボード(KPIカードとアラート閾値を設定)
- W9–10:パイロット運用(週次で差異レビュー→標準更新)
- W11–12:全社展開(教育+監査ルール、月次会議フォーマット固定)
実装チェックリスト
- 出来高単位と標準工数が工種別に定義されている。
- 段取り時間が労務とは別に計上・監視されている。
- 材料・外注の年間単価表と相見積3社の運用ルールがある。
- 高付加価値案件の配分目標(%)と受注禁止ラインがある。
- 追加見積の承認フローと契約条項がテンプレ化されている。
- 差異の原因ラベルが価格・歩掛・段取り・仕様・外因で統一。
- 月次会議で標準更新(テンプレ・係数・単価)を必ず決議。
FAQ
Q1. まずどの工種から始めるべきか?
売上比が高く、標準化の余地が大きい工種から。一般にA工種(売上の30%以上)が最有力です。
Q2. システムがなくても始められるか?
開始はExcelでも可能です。重要なのは定義の統一(出来高単位・標準・差異ラベル)。のちにツールへ移植すればよいです。
Q3. 銀行格付けへの影響は?
粗利安定は利益水準と回収サイトの安定化に効き、自己資本の積み上げに直結します。管理会計の定着は説明力(モニタリング能力)として評価されやすく、資金調達の選択肢を広げます。
導入支援(無料)
貴社の見積・実行予算・出来高データの一部をご提供いただければ、粗利+5%の“改善原資マップ”を初回無償で作成します。
※ 機密保持契約(NDA)対応可。データは用途限定で取り扱います。