1. 前提:熱中症は「労災」ではなく「経営リスク」である
•気候変動に伴い、作業員の体温上昇による生産性低下は今後不可避
•重篤化すれば企業イメージ・取引継続・人材採用に直結する致命傷となる
•「暑さ」は管理できる。管理されない暑さは経営責任と認定されるリスク
⸻
2. 論点:経営陣が今すぐ意思決定すべき3つのポイント
論点 なぜ今なのか 意思決定の軸
① 空調服の全現場配備 作業員の生産性+安全性に直結 月数千円の支出か、数千万円の損失か
② 暑熱時の作業中断
ルールの制定 「自己判断の限界」→明文化の必要性 安全基準の定量化(WBGT指数連動)
③ 熱中症対策をCSR・
採用ブランディングに転換 「安全に投資する会社」認知形成 SNS・採用広報との連動戦略
⸻
3. 打ち手:現場と経営の両輪で回す実行施策
▶ 現場サイド(オペレーションレベル)
•空調服/塩タブレット/スポーツドリンクを一括支給(現場ごと管理)
•WBGTセンサーの常設 → 30℃超で「一時中断・軽作業転換」ルール明文化
•「熱中症5秒チェック」導入(顔色・受け答え・手の温度)
▶ 経営サイド(マネジメントレベル)
•全現場に「熱中症マネジメントシート」配布(チェックリスト+報告書)
•安全パトロールに「暑熱対策評価項目」を追加
•自社HPや採用ページに「熱中症対策方針・取組実績」を明記(ESG対応)
⸻
4. 効果:投資対効果とブランディングの最大化
指標 Before After(対策導入後)
作業員1人あたりの作業時間 6.5時間 7.5時間(休憩頻度を最適化)
現場離脱・救急搬送件数 年間7件 0〜1件(2024年A社実績)
求人応募者の「安心して働ける会社」認知 38% 79%(調査比較)
⸻
5. まとめ:経営判断に求められる“コストではなく投資”という視点
暑さ対策は「現場任せ」にする時代は終わった。
熱中症対策こそ、人材確保・生産性向上・企業価値向上のための戦略的投資である。
コンサルティング目線
なぜ建設業で熱中症リスクが高いのか?
1. 屋外作業 × 夏の高温多湿環境
建設現場は、炎天下での長時間作業が日常です。特に湿度と気温の相関を示す「WBGT(暑さ指数)」が28℃を超えると、熱中症の発症リスクは急上昇します。
2. 作業員の高齢化と体調変化
近年、建設業界では人手不足の影響で50代以上の作業員が増加しています。加齢により発汗機能が低下するため、自覚のないまま体温が上昇し重症化するケースも。
経営者が認識すべき「熱中症=経営リスク」
1. 労災認定の基準と対応
熱中症は明確に労災対象です。作業中の発症はもちろん、昼休憩中や移動中であっても、業務起因が認められれば労災申請の対象となります。未対策の場合、企業責任が問われる可能性があります。
2. 熱中症が採用活動・企業イメージに与える影響
若手や女性の応募者が増えているなか、「安全配慮のない企業」だと認知されると応募離れにつながります。熱中症対策は「現場の安全」だけでなく「採用力」にも影響します。
建設現場での実践的な熱中症対策5選
1. 空調服の全員支給とコスト計算
ファン付き作業服(空調服)は、今や必須アイテム。初期費用は1着2万円前後だが、作業効率と安全性向上を考えれば十分な投資。経費計上も可能。
2. WBGT計測と作業中断の基準化
WBGTセンサーを設置し、「30℃を超えたら作業を中断・軽作業に切替える」といったルールを明文化する。現場任せにしないことが重要。
3. 水分・塩分補給のルール化
30分に一度の水分補給を義務化し、塩飴・スポーツドリンクの支給を制度として整備。飲み物の自費購入を減らすことで職人の満足度も向上。
4. 現場リーダーによる体調観察と記録
朝礼時と昼休憩後の体調チェック(顔色・受け答え・発汗状況)を習慣化し、記録する。異常があれば即休憩・作業中止の判断を徹底する。
5. ミスト扇・休憩所・日除けの設備投資
簡易ミスト、テント、移動式のエアコン付き休憩車両などを導入し、体を冷やせる場所を確保する。暑さ指数に合わせて、設置箇所と時間を調整。
まとめ:熱中症対策は「費用」ではなく「未来への投資」
熱中症対策を怠ることで生じる損害は、作業停止、労災対応、人命への影響、採用難など多岐にわたります。今や、暑さへの対策は「安全配慮義務」だけでなく、「企業の社会的責任(CSR)」の一環でもあります。
建設業が今後も持続的に成長していくためには、従業員の命と健康を守ることから始めなければなりません。今こそ、「安全」に投資する経営判断が求められています。