建設業の下請け脱却は何からすべき?比率を下げる順序と移行期の備えを解説!

建設業の下請け脱却は何から?

下請け脱却とは、下請け工事をすべてやめることではなく、売上に占める下請けの比率を計画的に下げることを指します。目標とする比率を先に決めずに動き出すと、既存の取引を減らした後で代わりの受注が埋まらず、売上の谷だけが残ります。判断の順序は、何割まで下げるかを決め、残す工種と取引先を選別し、移行期に起きることへ備えるという流れになります。

この記事の要約

  • 下請け脱却は比率を下げる話であり全廃を意味しない
  • 目標比率と達成時期を先に決めないと移行期に耐えられない
  • 原価に満たない金額での契約は禁止され交渉余地が生まれた
  • 採算の改善と脱却は別の打ち手で順序を選べる
  • 切る前に代わりの受注を作らないと売上の谷が先に来る

下請け脱却は下請けをやめることか

下請け脱却は下請けをやめることか

下請け脱却という言葉は、下請け工事をすべて手放すことのように響きます。実際に取り組んでいる会社が進めているのは、売上に占める下請けの比率を下げ、受注の入り口を複数持つことです。

目標は比率を下げることにある

下請け脱却の目的は、受注量と価格が他社の事情で決まる状態から抜けることにあります。そのために必要なのは下請け工事の全廃ではなく、1つの取引先や1つの受注形態に依存しない構造を作ることです。

売上の9割を2社からの下請けで得ている会社が、その比率を6割まで下げられれば、1社の発注量が落ちても事業は続きます。残る6割は引き続き下請け工事であっても、依存の度合いが変われば経営の自由度は上がります。

下請け工事を残す選択も取れる

採算が確保できていて、発注量も安定している下請け取引は、無理に減らす必要がありません。下請けという形態そのものが問題なのではなく、選べない状態が問題だからです。

長年続いている取引先の中には、支払条件が良く、施工の進め方も自社に合っているところがあります。こうした取引は、比率を下げる対象から外し、むしろ関係を維持する前提で計画を立てます。減らす対象を絞り込むほど、移行の負担は小さくなります。

何割まで下げるかを先に決める

目標とする比率と、達成する時期を数字で決めます。決めないまま進めると、どこまで減らしてよいのかの判断が毎回揺れ、結局は現状維持に戻ってしまいます。

決め方は、現在の下請け比率を出し、そこから何ポイント下げるかを年単位で置く形になります。3年で9割から6割へ、といった水準です。減らす分の売上をどの受注で埋めるかも、同じ計画の中に書きます。この2つが対になっていない計画は、実行の段階で止まります。

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下請け比率を下げないと何が続くのか

下請け比率を下げないと何が続くのか

下請け中心の構造そのものが悪いわけではありません。ただ、比率が高いまま続けると、自社の判断で動かせない領域が残り続けます。

受注量が元請けの状況で動き続ける

売上の大半を数社から受けている場合、その会社の受注状況がそのまま自社の売上になります。相手の現場が減れば自社の稼働も減り、増えれば一気に手が足りなくなります。この変動を自社の努力だけで平準化するのは難易度が高いです。相手の業績や方針の変更、担当者の異動といった要因で、前年と同じ発注量が続く保証はありません。翌期の売上見込みを立てられない状態が続く限り、設備投資も採用も踏み込めません。

人員計画と採用の見通しが立たない

受注量が読めなければ、人を増やす判断もできません。採用した後に発注量が落ちれば、固定費だけが残ります。

一方で、若手を採用せずにいると職人の年齢構成が偏り、数年後に施工体制そのものが維持できなくなります。受注の見通しが立たないという理由で採用を先送りし続けることは、将来の施工力を削る選択にもなりかねません。この二択から抜けるには、受注の入り口を増やして見通しを作る進め方がおすすめです。

価格の見直しを切り出しにくい

取引先が限られていると、単価の見直しを申し入れる場面で、継続発注への影響を懸念して話を出しにくくなります。相手に非があるという話ではなく、代わりの受注先がない状態では交渉の前提が整わないという構造の問題です。

結果として、資材と労務費が上がっても請負金額に反映されないまま工事を受け続けることになります。受注先が複数あれば、条件が折り合わない工事を見送るという選択肢が生まれ、交渉そのものが成立するようになります。

下請けを脱却しなくても採算は改善できる

下請けの比率を下げる取り組みには時間がかかります。その間も採算は改善できますし、制度の面でも交渉の材料は増えています。

選べる打ち手着手までの時間
見積もりの根拠を書面で残し、原価を下回る水準では受けられないと説明する次の工事から着手できる
工事ごとの粗利率を集計し、下限を割っている工事の条件を見直す次の工事から着手できる
取引先の構成を入れ替える(受注構造の転換)年単位での取り組みになる

原価を著しく下回る契約が規制の対象になった

通常必要と認められる原価に満たない金額での請負契約は、以前から建設業法第19条の3で注文者側に禁止されています。加えて令和6年の改正建設業法により、令和7年12月からは受注者側についても、正当な理由なく原価に満たない金額で契約を締結することが禁止され、著しく低い労務費等による見積りやその変更依頼も禁止されました。国土交通省は元請負人と下請負人の関係について建設業法令遵守ガイドラインを公表しており、不当に低い請負代金の考え方が示されています。

この規定があるからといって、個別の契約が直ちに違反になるかどうかは、工事の内容や交渉の経緯によって判断が分かれます。自社で違法かどうかを結論づけるより、見積もりの根拠を書面で残し、原価を下回る水準では受けられないと説明する材料として使うほうが実務に合います。

参考:国土交通省「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律の令和7年12月施行について(通知)」

参考:国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン(第12版)」

先に採算を直す選択も取れる

下請けのまま採算を改善するだけで、状況が変わることがあります。粗利率が数ポイント上がれば、資金の余力が生まれ、その余力が構造を変える取り組みの原資になります。

具体的には、工事ごとの粗利率を集計し、下限を割っている工事の条件見直しです。同じ取引先でも、工種や規模によって採算は違うため、取引そのものをやめなくても受ける工事を選ぶ形で改善できる場合があります。この段階を飛ばして構造の転換に進むと、移行期を支える資金が足りなくなります。

【関連記事】建設業の粗利率を改善するには?水準の見方と外注費・単価の打ち手を解説

採算改善と脱却は別の打ち手になる

採算の改善と受注構造の転換は、目的も時間軸も違います。混ぜて考えると、どちらも中途半端になります。

採算の改善は、いま受けている工事の見積もりと原価に手を入れる話で、次の工事から着手できます。受注構造の転換は、取引先の構成を入れ替える話で、年単位の取り組みになります。着手できる時期も効果が出るまでの期間も違うため、2つを1つの計画に混ぜず、別の打ち手として管理しましょう。

比率を下げる順序をどう決めるか

比率を下げる順序をどう決めるか

減らす対象を決めるには、工種と取引先の2つの軸で現状を並べます。感覚で決めると、残すべき取引を減らしてしまうことがあります。

並べる軸判断の材料
工種粗利率が高く自社の技術が活きる工種か
取引先採算と年間の発注量が見合っているか
順序代わりの受注が立ち上がってから減らす

工種ごとの粗利率で残す仕事を選ぶ

直近2期の完成工事を工種別に集計し、粗利率を並べます。どの工種で利益が出ているかが分かれば、残す仕事と減らす仕事の判断ができます。

粗利率が高く、自社の職人の技術が活きる工種が、今後の軸になります。逆に、粗利率が低く、外注に頼る割合が大きい工種は、比率を下げる候補です。受注量が多い工種ほど利益率が低いという結果が出ることもあり、その場合は稼働と採算のどちらを取るかという判断に入ります。

取引先を採算と発注量で並べる

取引先ごとに、年間の完成工事高、粗利率、平均入金サイトを並べます。3つを同時に見ることで、採算だけでは分からない評価ができます。

粗利率が中程度でも、発注量が安定していて入金が早い取引先は、経営を支える存在です。逆に、粗利率が低く発注量も不安定で、入金まで90日かかるような取引は、比率を下げる優先度が高くなります。この一覧を作ると、どこから手をつけるかを判断しやすくなります。

切る前に代わりの受注を作る

減らす対象が決まっても、先に減らすと売上の谷がそのまま資金の谷になるため、代わりの受注が立ち上がるまでは取引を続けます。

順序としては、新しい受注先を1つ立ち上げ、そこからの発注が年間を通して見込める状態になってから、採算の悪い取引の比率を落としていきます。新しい受注先が元請企業であれば協力会社としての取引になりますし、施主や法人からの直接受注であれば自社が元請けとして契約する形です。どちらのルートを選ぶかは、自社の体制と投資できる余力によって変わります。

【関連記事】建設業の元請け開拓とは?2つの意味の違いと選び方を解説

移行期に何が起きるか

比率を下げる過程では、一時的に経営が不安定になる時期があります。あらかじめ想定しておけば、途中で引き返さずに済みます。

移行期に起きること備え方
売上の谷谷の深さと時期を資金繰り表に反映する
立替期間の伸び新しい取引先の支払条件を事前に確認する
職人の手待ち谷の時期に教育や社内整備を充てる

売上の谷が先に来る

既存の取引を減らした分の売上は、すぐには埋まりません。新しい取引先との商談から初回の受注、そして入金までには数か月かかります。

この谷の深さと期間を、計画の段階で資金繰り表に入れておきます。減らす売上が年間で5千万円、埋まるまでに6か月かかるなら、その間の資金がどれだけ必要かを数字で出しておきましょう。谷を見込んでいない計画は、実際に売上が落ちた時点で中断に追い込まれやすくなります。

【関連記事】建設業の資金繰りはなぜ苦しい?資金繰り表と取引条件で立て直す方法を解説

入金までの立替が長くなる

実績のない相手には、慎重な条件が提示されやすいため、新しい取引先との取引が始まると、当初は支払条件が既存の取引より不利になることがあります。

商談の段階で支払条件を確認し、資金繰り表に反映しましょう。条件が厳しい場合でも、初回の工事を無事に終えて信用ができれば、次回以降の交渉余地は生まれます。最初の数件については、立替が長くなる前提で資金を用意しておく必要があります。

職人の手待ちが発生する

受注の入れ替えが進む時期には、現場と現場の間に空きが出ます。既存の工事が終わり、新しい受注がまだ立ち上がっていない状態が重なることがあるからです。

手待ちは避けられない面がありますが、この時間を使い道のある期間に変えることはできます。資格の取得、施工手順の標準化、施工実績の写真と記録の整理といった、通常は後回しになる作業を充てます。とくに施工実績の整理は、新しい取引先への提案材料になるため、次の受注につながる可能性があります。

元請けになるために社内に必要なもの

比率を下げた先で自社が元請けとして契約するなら、下請けのときには必要のなかった機能を社内に持つことになります。

必要になる機能内容
積算と原価の見立て図面から数量と原価を自社で算出する
元請けとしての責任施工体制の管理と安全の統括を担う
引き渡し後の対応保証の範囲と期間をあらかじめ決める

積算と原価の見立てを自社で持つ

下請けとして受注してきた会社では、元請けが作成した数量にもとづいて見積もりを出す形が中心です。自社が元請けになると、図面から数量を拾い、他工種も含めた原価を見立てる作業が加わります。

この機能がないまま元請けの工事を受けると、見積もりの精度が足りず、着工後に原価が想定を超えやすくなります。積算のできる人材を採用するか、外部の積算事務所に依頼するか、既存の社員に習得させるかの判断を、受注を取りに行く前に済ませておきます。

【関連記事】建設業の利益率改善|原価管理と見積精度で粗利を残す方法

元請けとしての責任を洗い出す

元請けは、自社が施工しない工種も含めて工事全体に責任を負います。他業者との工程調整や現場全体の安全の管理も、業務として発生します。施工体制台帳については、公共工事では下請契約の金額にかかわらず作成が必要で、民間工事では特定建設業者が総額5,000万円(建築一式工事は8,000万円)以上の下請契約を結んで発注する場合に必要です。現場の労働者が元請下請合わせて常時50人以上(ずい道等・一定の橋梁・圧気工法の工事は常時30人以上)となる場合は、統括安全衛生責任者の選任も必要です。

これらは施工の技術とは別の能力であり、担当できる人がいるかどうかで受けられる工事の規模が決まります。まずは自社が対応できる範囲の工事から受け、体制を作りながら広げていく進め方が現実的です。最初から大きな工事を元請けで受けると、管理が追いつかず品質と採算の両方に響きます。

参考:国土交通省 関東地方整備局「建設工事の適正な施工を確保するための建設業法」

参考:職場のあんぜんサイト:統括安全衛生責任者[安全衛生キーワード]

引き渡し後の対応範囲を決める

元請けとして契約すると、引き渡した後の不具合への対応も自社が窓口になります。どこまでを保証の範囲とし、期間をどう設定するかは、契約の前に決めておきます。ただし住宅の新築工事については、構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分の瑕疵について、引渡しから10年間の責任が品確法で定められており、10年より短い期間を定める特約は無効になります。

範囲が曖昧なまま引き渡すと、経年による劣化まで無償で対応することになりかねません。自社が実際に提供できるアフターサービスの内容を明記し、追加費用が発生する条件もあらかじめ示しておきます。この整理ができていれば、見積もりの段階で保証にかかる費用を織り込めます。

参考:住宅の品質確保の促進等に関する法律 | e-Gov 法令検索(第九十四条)

まとめ

下請け脱却は、下請け工事をやめることではなく、売上に占める比率を計画的に下げて受注の入り口を複数持つ取り組みです。目標とする比率と達成時期を先に決め、工種と取引先の採算を並べて残す仕事を選び、代わりの受注が立ち上がってから既存の比率を落としていく順序になります。移行期には売上の谷と手待ちが起きるため、その深さを資金繰り表に入れておくことが前提になります。

ただ、工種別と取引先別の採算を集計し、そこから目標比率と時期を置き、移行期の資金まで見通した計画を作るとなると、現場を回しながら進めるには時間がかかります。新しい受注先を開拓する作業も並行するため、どちらも中途半端になりやすい局面です。

建設の参謀では、経営計画の策定と実行の支援に対応しています。あわせて粗利率の改善にも対応しており、構造を変える前の足元を固める段階からご支援可能です。受注先を増やす必要がある場合は、元請け候補の紹介と開拓の戦略設計から支援しています。対応範囲は個別に相談のうえ決定しますので、自社がどの順序で進めるべきかを確認したい場合は、以下より、ご相談ください。

▶お問い合わせ | エスエスコンサルティング

エスエスコンサルティング株式会社 代表取締役社長

アンダーセンコンサルティング(現 アクセンチュア)出身。

累計30年以上に渡り、建設業・製造業の経営改善コンサルティングに従事。

1,400社以上の建設事業者の成長を支援してきた。

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